冬の訪れとともに、今年も屋久島の里のあちらこちらでカワガラスが見られるようになった。
カワガラスは体全体が黒っぽいためその名前が付けられたが、カラスではなくスズメの仲間。ずんぐりした体形は、ミソサザイを一回り大きくしたよう。渓流の岩場で水中生物を探し、見つけると飛び込んで捕まえるので「渓流の素潜り名人」と呼ばれる。普段は川の上流から中流で暮らしているが、冬になると下流に下りてくるので見掛けることが多くなる。
川の同じ場所で餌を見つけては飛び込むことを1時間以上も繰り返す姿は、きちょうめんで忍耐強く感じる。その様子を見たアイヌの人々が民話を残している。「年老いたフクロウが天国の神様に伝えたいことがあるのだが、天国へ飛ぶだけの力が残っていない。それを見たカラスが伝言しようと申し出たが、フクロウの伝言が長過ぎて聞いているうちに寝てしまい失敗。次にホシガラスが来たがまた失敗。最後にカワガラスがやって来て、何日間も居眠りせずフクロウの伝言を聞き終えて天国へ飛び立ち、神様の返事を携えて無事に戻って来た」という(まつしたゆうり著「シマフクロウのかみさまがうたったはなし」より)。
カワガラスは全国に広く分布し、その南限が屋久島。渡り鳥ではなく、ある地域で繁殖し越冬もする「留鳥」。図鑑には「北海道から屋久島まで分布」や「北海道、本州、四国、九州、屋久島にかけて広く分布する」などと紹介されている。季節によって川の上流と下流を移動するカワガラスにとって、屋久島の特徴的な気候や地形が生息に適しているといえる。
全国10の都道府県でカワガラスがレッドリストの指定を受けている。河川開発によって個体数が減っているという。里の近くでもカワガラスが見られるということは、山からの清流が里に続いていることを示す。宮之浦川でバードウオッチングをしていた女性は「いつまでもここでカワガラスの素潜りが見られるといい」と願っていた。